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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)59号 判決 1979年2月22日

原告

サンコー株式会社

被告

藤井電工株式会社

主文

特許庁が昭和50年4月23日、同庁昭和48年審判第7326号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

被告は、昭和41年7月15日出願され同48年6月15日登録された名称を「柱上安全帯尾錠」とする登録実用新案第1005036号(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、昭和48年10月4日被告を被請求人として特許庁に対し本件考案につき実用新案登録無効の審判を請求したところ、特許庁は同庁昭和48年審判第7326号事件として審理したが、昭和50年4月23日、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決をし、この謄本は同年5月24日原告に発達された。

(2)  本件考案の要旨

1 上下両辺部1、2の裏側に相対向して内側に向く横溝3、4を設けた尾錠基盤5の右側ベルト挿通孔6の右側縁部を左方へ延長して表側に傾斜突出する突出片部7を形成し、ベルト挿通孔8の左側縁部を右方へ延長して表側に傾斜突出する突出片部9を形成したベルト掛止用の摺動板10を、上記の尾錠基盤5に、その横溝3、4に嵌合させることによつて尾錠基盤5の右側ベルト挿通孔6内に左右摺動自在に取付け、摺動板の突出片部9を尾錠基盤の突出片部7と対峙させた柱上安全帯尾錠において(以下「前段の構成」という)

2 尾錠基盤5の左辺部11の右側部に、表側右方へ傾斜突出する突出片部25を形成したこと(以下「後段の構成」という)

を構成要件とするもの。

(3)  審決理由の要旨

1 本件考案の要旨は、前項記載のとおりであると認める。

2 請求人(原告)が提出した甲第4号証は、「北海道支社規格83402-北支厚R6464命網(藤井ツヨロン柱上安全帯)と記標されたもので、その第1頁右上欄に、「制定、昭和39年12月10日登録」という記載はあるが、果して、本件実用新案登録出願前に頒布されたものであるかどうかは明らかでない。

また、その第7頁付図5の符号⑥として示されたものは、尾錠の平面図と側面図だけで、その具体的構造、作用、効果の説明がないために、同号証には、単に柱上安全帯に使用される尾錠が記載されているに過ぎないものと認める。

また、甲第5号証は、昭和40年2月制定された関西電力株式会社の「配電用無墜落型柱上安全帯」の規格、同第6号証は、昭和41年3月改定された中部電力株式会社の「柱上安全帯」の規格、同第7号証は、昭和41年12月22日制定された東京電気通信局の「柱上安全帯仕様書」であるが、それらの規格又は仕様書の制定又は改定の年、月又は年、月、日の記載だけでは、それら各号証の頒布された年、月、日は明らかでなく、また、これら各証号には、バツクルの平面図および側面図が記載されているだけであるため、その具体的構造、作用、効果が明らかでない安全帯に使用されるバツクルが記載されているものと認める。

3 請求人は、本件考案の前段の構成及び後段の構成がそれぞれ本件考案の出願前よりすでに公知であり、両者の構成を結合したものが出願前すでに公知であるから、本件考案の登録を無効とすべきものであると主張しているが、次の理由によつて採用することができない。すなわち、

(1) 請求人は、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載形式として、「……柱上安全帯尾錠において」と表現されているから、その「おいて」の前に記載された事項、すなわち本件考案の前段と構成は、その出願前公知であると主張する。しかしながら、実用新案登録請求の範囲の記載として、「……において」という表現形式がとられている場合、「おいて」の前に記載された事項が公知ないし上位概念を表示する場合の用語例として通常用いられることが多いとしても、本件実用新案の場合、直ちにその故のみをもつて、本件考案の前段の構成を本出願前公知とすることはできない。

(2) つぎに、請求人は、前段の構成が公知事項であることは、甲第3号証によつて明らかであると主張するが、同号証は、本件考案の出願人(本件審判における被請求人)が、本件の出願前に出願した昭和39年実用新案登録願第11020号「柱上安全帯尾錠」の拒絶査定に対する審判事件(昭和42年審判第533号)についての登録異議の決定書(昭和46年3月15日付)に過ぎないから、本件考案の前段の構成が、本出願前に公知であるかどうかの判断に影響を与えるものではない。

(3) 請求人は、さらに、前段の構成は、甲第4号証によつて本出願前すでに公知になつていたと述べているが、甲第4号証は、上記2においてすでに認定したように、その頒布された年、月、日が明らかでなく、また記載されている尾錠の具体的構造、作用、効果も明らかでないから、請求人の主張は採用しない。

以上のとおりであるから、本件考案の前段の構成が本出願前公知であるとの前提のもとに、後段の構成も米国特許第2,731,697号明細書、同第3,222,745号明細書によつて本出願前公知べあるから、本件考案はこれら公知事実から当業者が極めて容易に考案することができたものであるとの請求人の主張は、その前提において誤つているので、後段の構成が本出願前公知であるかどうかを判断するまでもなく、採用できない。

(4)  また、請求人は、本件考案の(A)の構造も、(B)の構造も、(A)、(B)を結合した構造も、本件考案の登録出願前において公知となつたものであると主張し、甲第5ないし第7号証を提出した。なお、「(A)の構造」、「(B)の構送」の意味は必ずしも明らかでないが、(A)の構造とは、本件考案の前段の構成を、(B)の構造とは、後段の構成を指称するものと解する。

しかしながら、甲第5ないし第7号証は、上記2において認定したように、それぞれの頒布された年、月、日が明らかでなく、またそれらに記載されているバツクルの具体的構造、作用、効果も明らかでないから、請求人の主張は採用しない。

4 したがつて、本件考案は、請求人の主張する理由及びその提出にかかる証拠方法によつては、その登録を無効とすることはできない。

(4)  審決を取り消すべき事由

審決理由のうち、本件考案の要旨が審決認定のとおりであること、請求人は、本件考案の前段の構成及び後段の構成がそれぞれ本件考案の出願前よりすでに公知であり、かつ両者の構成を結合したものが出願前すでに公知であるから、本件考案の登録を無効とすべきものであると主張したこと、請求人主張の本件考案の(A)の構造とは本件考案の前段の構成を、(B)の構造とは後段の構成を意味すること、請求人は、証拠として甲第3号証から同第9号証(証拠番号はいずれも本件訴訟におけるもの)を提出したほか、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載として、「……柱上安全帯尾錠において」という表現がとられているから、その前に記載された事項たる本件考案の前段の構成は、本件考案の出願前公知である旨主張したこと、請求人の主張に対する判断中甲第3号証を根拠とする主張に対する判断および「……柱上安全帯尾錠において」という表現がとられていることを根拠とする主張に対する判断は、いずれも争わない。しかしながら、審判手続における請求人の主張には、本件考案が実用新案法第3条第1項第2号に該当する旨の主張が含まれているのであり、甲第4号証から第7号証まではその立証のため提出されたものであるにかかわらず、審決は、請求人の主張と甲第4号証から第7号証までの立証の趣旨を誤解し、請求人の主張は内法第3条第1項第2号の主張を含まず、甲第4ないし第7号証も同法第3条第1項第3号該当の事実を立証するために提出されたものであると解した結果、本件考案が実用新案法第3条第1項第2号に該当するかどうかについて判断していないから、違法として取り消さるべきである。

すなわち、請求人(原告。以下「原告」という。)は、審判手続において、甲第4ないし第7号証によつて本件考案がその出願前すでに「公知」となつていたと主張したが、上記の出願前「公知」というのはいわゆる「公知公用」の趣旨であつて、いわゆる「文献公知」の趣旨ではない。

審判手続において原告が「公知」という表現を用いても、「公知、公用」の趣旨に解さるべきことは次のことから明らかである。

1 「公用」とは公然知りうる状態において考案が実施されれば足りるところ、本件考案の実施品である尾錠は現物を1見すれば直ちに構造、作用効果を理解しうる簡易な構造のものであるから、その公用(公然実施)の場合も結局は公知となつてしまうのであり、本件においては、「公知」も「公用」も同趣旨に解すべきである。

また、「公知」とは人を媒体として考案が公然と知られている場合をいい、「公用」は機械、設備等を媒体として考案の内容が知られている場合をいうと解しうるが、本件考案のような場合、製造販売されていた製品(実施品)を媒体とする意味においては「公用」であり、販売者、購買者すなわち人を媒体とする意味においては「公知」であるから、「公知」と「公用」は同一趣旨に解さるべきである。

2 甲第4ないし第7号証は、その名称こそ「規格」、「仮規格」、「仕様書」と異つてはいるが、いずれもその所定製品が「規格」等の制定当時すでに製造販売(公然実施)されていたことを証するものであるところ、「規格」等の「制定」がその前の「公然実施」を示すものであることは本件考案の技術分野における常識であるから、甲第4ないし第7号証の立証趣旨は、明らかな筈である。

そして、甲第4号証(昭和39年12月10日制定登録の規格)第7頁の⑥の尾錠は本件考案の前段の構成を具備しており、甲第5号証(昭和40年2月制定の仮規格)の第13-14頁および第17-18頁に示されている③の尾錠、甲第6号証(昭和41年3月改定の規格)の第6頁および第8頁に示されている③の尾錠、甲第7号証(昭和41年12月22日制定の仕様書)の第2枚目、第3枚目に示されている③の尾錠は、いずれも本件考案における前段の構成を具備するとともに後段の構成をも具備していることは明らかである。

なお、当業者が具体的構造および作用効果を十分理解できないのに、「規格」等を制定することは絶対にありえない。

2 被告の答弁

(1)  請求の原因(1)ないし(3)は認める。

(2)  請求の原因(4)について

審決が、原告の請求を成り立たないとした理由の要点は1(3)記載のとおりであり、審決の判断には何らの誤りもない。

審決取消訴訟においては、現実に審決によつて審理判断された特定の無効原因のみが審理の対象とさるべきでそれ以外の無効原因を審決の違法事由として主張することは許されないものである。また特定の公知事実との対比における無効原因と他の公知事実との対比における無効原因とは別個であつて、対比される無効原因ごとに無効原因が異なるので、審決の取消訴訟においては審判手続において審理判断されなかつた公知事実との対比における無効原因は、審決を違法事由として主張することができない。本件の場合、原告は、審判手続において、本件考案が実用新案法第3条第1項第2号に該当する旨の主張をしていないから、今更審決の違法事由として主張することは許されないのである。

原告は、出願前「公知」の主張は「公知公用」の主張であるというけれども、この主張は失当である。すなわち、実用新案法第3条第1項は、新規性のない考案について、実用新案出願前に日本国内において公然知られた考案(第1号、いわゆる公知)、実用新案出願前に日本国内において公然実施された考案(第2号-いわゆる公用)、実用新案出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案(第3号-いわゆる文献公知)の3つに分けて規定しており、「公知」と「公用」は異なる概念である。「公然実施された考案」が「公然知られた考案」となるには、考案が実施された事実があること、考案が実施されたことによつて公然知られた事実がることの要件をみたさなければならない。しかるに、原告は、審判手続において「公知」を主張しているに過ぎないのである。

また、原告は、審判手続において、本件考案の前段の構成が公知であることの立証として甲第4号証を提出し、さらに前段の構成も後段の構成も、前段の構成と後段の構成を結合した構成も、出願前公知であることの立証として甲第5、6号証を提出し、また上記甲第5、6号証の技術内容が出願前すでに公知であることの立証として甲第7号証を提出したものであり、甲第4ないし第7号証を「公然実施」の事実を証するものとして提出したわけではないから、本件訴訟において甲第4ないし第7号証をもつて「公然実施」の事実を証するものであると主張することは許されない。

しかも、規格等仕様書の制定と公然実施とは別個の問題である。

甲第4ないし第7号証の規格等の仕様書は、被告と柱上安全帯の納入先(使用する側)との間に取り決める文書であり(刊行物ではない)、規格等の仕様書が制定されても自動的に製品を納入するものではなく、その需要者から注文があつて生産の準備にかかるものであり、見積、契約、試験等の手続を経て合格すればはじめて納品することになるものであり、甲第4ないし第7号証のみをもつて公然実施を立証し得るものではない。

なお、甲第4ないし第7号証には外形図が示されているだけで構造作用効果の記載がないが、単に外形を表わした図形からはその構造を想定することができない。

理由

1  請求の原因(1)ないし(3)の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(1)  成立に争いのない甲第1号証と弁論の全趣旨をあわせれば、審決は、請求人(原告)の主張には本件考案が実用新案法第3条第1項第2号(以下単に2号という。)に該当する旨の主張は含まれておらず、甲第4ないし第7号証も2号該当の事実を立証するために提出されたのではなく、実用新案法第3条第1項第3号(以下単に3号という。)該当の事実を立証するための刊行物として提出されたものと解してそのように取扱い、上記書証の頒布の時期の不明確および技術上の記載不備を理由としてこれを採用せず、よつて原告の上記主張を排斥したものであり、本件考案が2号に該当するかどうかについては判断をしなかつたことが認められる。

(2)  以下、原告の主張立証についての審決の上記の解釈が正当かどうかについて考察する。

1 (1) まず、審判手続における原告の主張立証の経過を辿つてみるのに、成立に争いのない乙第1号証、同乙第3号証、同乙第5号証の1、同乙第7号証の1をあわせると、原告は、審判請求書において、本件考案の前段の構成は実用新案登録請求の範囲の記載として「……において」と結語されているから公知であり、また後段の構成も甲第1、2号証(本件訴訟における甲第8、9号証)によつて出願前公知であるから、本件考案はこれら公知事実より当業者が極めて容易に考案することができたとみるべきである故、実用新案法第37条第1項、第3条の規定により登録無効の審判請求をする旨述べ、「第1弁駁書」においても同様の趣旨の主張をし、その後「証拠書類提出の件および字句訂正の件」と題する書面とともに、後段の構成が公知の構成であるかまたは少なくとも極めて容易に考案をすることができたものであることを立証するために甲第1、2号証を、前段の構成が公知事項であることを立証のため甲第3号証を、「本件実用新案の『前段の規定』は、本件考案の出願日(昭和41年7月15日)より以前である昭和39年12月10日すでに公知になつている事実を立証する」ために甲第4号証を各提出し、さらにその後「証拠書類提出の件」と題する書面に「甲第5号証および甲第6号証をもつて、本件実用新案の(A)の構造も(B)の構造も、(A)(B)を結合した構造も、いずれも本件実用新案出願(昭和41年7月15日)前において、すでに公知となつている事実を立証する。甲第7号証をもつて、上記第5号証および甲第6号証の技術内容が本件実用新案出願前、すでに公知であつた事実の裏付けとする」との立証趣旨を掲げて甲第5ないし第7号証を提出したことが認められる(なお、「(A)の構造」とは「前段の構成」を「(B)の構造」とは「後段の構成」を意味することは当事者間に争いがない。)。しかし原告が主張立証の過程で「公然実施された」とか「公用」とかの語を使用したことを認めるに足りる証拠はない。

(2) ところで、実用新案法第3条第1項には、新規性の認められない考案として、公然知られた考案(1号)、公然実施された考案(2号)、頒布された刊行物に記載された考案(3号)の3つが掲げられ、それぞれいわゆる「公知」、「公用」、「文献公知」と略称されていることは周知のとおりであるが、これらは、新規性喪失という点で包括されるとしても、上記のようにそれぞれ号を異にして要件を異にする内容を掲げているから、各別個の事柄を意味すると解するのが当然である。

そこで上記各号の趣旨を考えるのに、「公然知られた」考案とは人を媒体として不特定人により現実に知られることにより新規性を喪失する考案を、「公然実施された」考案とは設備、装備などを媒体として不特定人に知られうる状態において実施されることにより新規性を喪失する考案を、「頒布された刊行物に記載された」考案とは刊行物頒布によつて公然化されることにより新規性を喪失する考案を意味すると解され、それぞれ新規性喪失原因を異にする概念であると解される。

しかしながら、実務上往々にして、上記のいわゆる「公知」「公用」「文献公知」は、その包括概念である新規性喪失という意味で、一括して「公知」と称されることがないではない(以下においては、この意味の「公知」を「広義の公知」、1号の「公知」を「狭義の公知」ということがある。)。

そこで、本件の場合についてみるのに、原告が審判手続において使用した「公知」という語は、前に認定したような主張立証の経過全体に照らして考えると、狭義のもととして用いられているとは即断できず、かえつて広義のものとして用いられていることがうかがえる。

2 つぎに、甲第4ないし第7号証の立証趣旨について考えてみる。

成立に争いのない甲第4号証によれば、同号証は国鉄北海道支社が昭和39年12月10日制定した藤井ツヨロン柱上安全帯と称する命綱に関する規格であつて、その命綱の材料、加工方法、構造、形状、寸法、性能、試験等についての基準を示したものであることが、成立に争いのない甲第5号証によれば、同号証は関西電力株式会社が昭和40年2月制定した配電用無墜落型柱上安全帯に関する仮規格であつて、その構造、形状、寸法、材料、試験方法等についての基準を示したものであることが、成立に争いのない甲第6号証によれば、同号証は中部電力株式会社が昭和35年3月に制定し同41年3月に改定した柱上安全帯に関する規格であつて、その構造、形状、寸法、材料、試験方法等に関する基準を示したものであることが、成立に争いのない甲第7号証によれば、同号証は東京電気通信局が昭和41年12月22日制定した柱上安全帯に関する仕様書であつて、その構造、用途等を示したものであることが、それぞれ認められる。

これら各号証は、そこに示されている事柄の性質上柱上安全帯の需要者である制定者(電力会社等)が特定の製造業者と製品納入契約をするに際し、これらの者に対し個別的に、納入さるべき柱上安全帯の規格等を周知徹底させるため作成された文書であつて、その性質はいずれもいわゆる仕様書ないしこれに類するものであり、不特定人への頒布を目的とした刊行物ではないとみるのが相当である(頒布を目的とした刊行物でないことは被告の自ら認めるところである)。

これら各証の記載内容の性質と、一般に需要者が反覆または継続して大口の注文をする場合は、すでに公然実施されている技術等のうち優良とみられるものを採用し、仕様書もその内容に従つて作成されることが多いと考えられること(なお、原本の存在と成立に争いのない甲第21ないし第24号証をあわせると、本件の仕様書はその種のものであることが認められる)に鑑みると、これら各証に基準として示されている技術内容等は、規格等の制定当時すでに公然実施されていた柱上安全帯についての技術内容等が示されているとみる余地があるといわなければならない。

甲第4ないし第7号証について上記に述べたところと1において述べた審判手続における主張立証の経過等をあわせ考えると、甲第4ないし第7号証は「広義の公知」に含まれる「公用」の立証のためにも提出されたと解するのが自然である(もとより、「公用」の立証のためにはいつどこでどのような態度で実施されたかを明確にしたうえ証拠申出をなすべきであることはいうまでもないが、本件の場合は、前記のように、文書の内容、性質上、規格等の制定前に制定者の管内で各号証添付図面等に記載されたものが公然実施されたことを立証する趣旨と解することが可能である。)。そうすると、請求人たる原告の側に、前記のような特殊な性質、内容を有する文書たる甲第4ないし第7号証を提出するに当り、一般に3号該当の事実を立証するために提出されるもつぱら技術内容自体を開示する文献(公報、図書、論文等)と同視されることのないようにする十分な配慮が欠けていたといえるにせよ、このような場合も、審決庁において請求人に釈明を求めるなどすれば(職権による審理の制度さえとり入れている実用新案法の趣旨に鑑みると、審決庁は、疑問と思えば、随時適宜な方法で釈明要求をすることができると解れる)、請求人たる原告の主張および甲第4ないし第7号証の上記のような立証の趣旨は、一層判然としたと考えられるので、審決の解釈を正当化することにはならない。

3 以上述べたところから、請求人の主張には本件考案が2号に該当する旨の主張は含まれていないという審決の解釈はこれを正当として是認できない。

(3)  そうすると、審決には、以上に判示した誤りがあり、ひいて判断遺脱の違法があるというほかなく、これは審決の結論に影響がないとは断定できないから、審決はこの点で取り消さるべきである。

3  よつて、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。

(小堀勇 小笠原昭夫 舟本信光は転補のため署名押印できない。)

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